未来に向けて「わたす」想い

アントラークラフツAntler Crafts

狩猟は、牡鹿半島の森を見つめること

Antler Crafts(アントラークラフツ)の小野寺望(のぞむ)さんは、牡鹿半島で20年以上ハンターを続けてきました。狩猟した鹿や鴨を自ら加工してジビエとして提供しています。

狩猟は、豊かな生態系を育んできた牡鹿半島の森を生き物の目線で見つめることでもあり、いのち一つ一つへの感謝やリスペクトを感じることでもあるという望さん。しかし、近年は、環境の変化もあり鹿が激増して、それ以上の狩猟を余儀なくされ、崇拝していたものや大切にしていた想いが踏みにじられていくような気持ちになったといいます。だからこそ、一頭一頭の命を無駄にせず「食」から環境と向き合う取り組みやワークショップ等の活動を始めました。

一頭一頭を大切に、
誰もが食べやすいジビエを

Antler Craftsで提供するお肉の特徴の一つは、ジビエがあまり得意ではない人でも食べやすいようにしていることです。望さん自身、レバーが苦手で、雑味や血生臭さが感じられるお肉は好まなかったため、自身の好みに落とし込んでいきました。その結果、25日前後寝かせることで、個体差はあるものの柔らかくて旨みのある食べやすいお肉に仕上がったのです。

もう一つの特徴は、一頭一頭のお肉と向き合いながら、最大限に美味しくできるよう手間をかけていること。そもそも牡鹿半島の鹿肉は、山から海が近いリアスの地形によってミネラルを多く含んでおり、細胞のきめ細い、柔らかくて身離れも良い肉質です。とはいえ自然相手なため、狩猟時のお肉の質にはムラが出てしまいます。そこで、どんなお肉でも美味しく食べられるように、個性と向き合いながらそれぞれに適した加工をして出荷。〈わたす日本橋〉でも、その時の鹿肉の個性に合わせて余計な調理をせず、なるべくその良さをシンプルにお客様に伝えられるように提供しています。

森と向き合い続け、未来を想う

東日本大震災以前からこうした営みを続け、そして震災後もなお森に入り続けている望さんのアクションは、たくさんの感謝を抱きつつも、未来への憂いや希望と共にあります。

「がむしゃらの10年でしたが、震災を経験したにも関わらず、変わらない、むしろ壊れていくものもたくさんある。自然災害があるのはある意味当たり前で、私たちは受け止めるしかないですが、そこから未来に向けて今私たちは何をすべきなのか、何に対しての“復興”なのか、何を日本として目指すのか。みんなができることからやっていくしかない中で、今、自分にできるアクションは、森の在り方と向き合い続けることしかないのです」―〈わたす日本橋〉から牡鹿の森に想いを馳せて、お肉を味わってみてください。

アントラークラフツ

〒986-2342 宮城県石巻市小積浜谷川道44
info@antlercrafts.jp
https://antlercrafts.jp/

未来に向けて「わたす」想い

株式会社 ダイチ

人々の暮らしに、健やかなお肉を

急峻な牧場で逞しく立つ黒毛和種の父牛と褐色和種の母牛。そして、自然交配かつ自然分娩で生まれる仔牛たち。株式会社ダイチが提供するのは、のびやかにストレスなく育てた漢方和牛。繁殖から肥育までをそれぞれのスペシャリストが担うことで、食べる人の健康を考えた健康な牛を育てます。

人が健やかであるためにも、健やかなお肉を届けたいというダイチ。牛肉だけでなく豚肉も提供しており、肥育では、人が食べても身体に良い14種類の漢方ハーブ飼料を与え、ヘルシーかつ旨みのある、唯一無二の漢方和牛と漢方三元豚が実現しました。実際、漢方和牛は健康に良いとされる不飽和脂肪酸や悪玉コレステロールを下げるオレイン酸を多く含み、漢方三元豚は豚特有の臭みが少なくもたれにくい、健康的なお肉です。

こだわりに自信を持って

ダイチの漢方和牛は、赤身と言っても、上質な脂肪が程良く身に付いて、柔らかいうえに食べ応えも充分。シンプルに塩やわさび醤油でも美味しくいただける、バランスのとれたひと味違う赤身です。〈わたす日本橋〉では、主にランチメニューで両方を活かした合い挽きのハンバーグとして使用。脂がしつこくなく、もたれない優しい味わいのお肉を活かすため、牛肉と豚肉の割合も、〈わたす日本橋〉のキッチンスタッフと話し合ってベストな割合にしました。

食肉販売事業部営業部長の狩野康治(こうじ)さんは、以前わたす日本橋に訪れた際、ハンバーグランチを美味しそうに食べているお客様の様子を見て嬉しくなりました。「始めた当初は心配もたくさんありましたが、赤身重視・健康志向にこだわってきたお肉の美味しさが認知されて嬉しいです。赤身だけでなくもっとたくさんの部位の魅力も伝えていきたい」と話します。

地域のみんなで喜び、発信していきたい

ダイチさんが営む栗原市の「おかってマルシェ」では、お肉以外にも地域の生産者たちの野菜なども取り揃えており、〈わたす日本橋〉にも提供されています。良い食材をつくっている生産者がいても発信する場所がなかったため、地域のみんなで発信できる場所にしたいという想いで始まりました。

ダイチのお肉だけでなく、そういった地域の食材が〈わたす日本橋〉で食べられることも、全体のモチベーションや刺激となっているという康治さん。東日本大震災やコロナ禍でも打撃を受けましたが、地元の生産者の皆さんと協力し合いながら乗り越えてきました。「もっと人々の暮らしが食から健やかになって欲しい」という想いで、これからも地域のこだわりと美味しさを発信し続けています。

未来に向けて「わたす」想い

株式会社臼福本店

東日本大震災を経験して気付いた3つのこと

気仙沼市で140年以上の歴史を持つ漁業会社、株式会社臼福本店。代表の臼井壯太朗(そうたろう)さんは、東日本大震災を経験して改めて気付いた3つのことを軸に、震災後の事業を展開してきました。

ひとつ目は、エネルギーの大切さ。全てが使えなくなって、初めて当たり前に使っていたことや有難さに気付きました。二つ目は、食の大切さ。衣食住の中で「衣」「住」はしばらく凌げても「食」はないと生きていけません。そして三つめは、人のつながりの大切さ。知らない人でも挨拶をしたり、苦しいことも喜びも泣いて分かち合ったりする中で、人のあたたかさと、日本にあったはずなのに稀薄しつつある文化が、田舎にはまだあると感じたといいます。

食についての価値を改めて見直したい

震災を経験して気付いた「食」の大切さから、壯太朗さんは日本、そして気仙沼の食について見つめ直しました。以前ヨーロッパに住んでいた経験がある壯太郎さんは、ヨーロッパの人たちはもっと自国を理解し、自分たちの地域もリスペクトをしていたのが印象的で、食べ物についても各地が誇りを持っていたように思っていました。そして、国境を守ってきたのは、各地に農家がいたからであり、日本の場合はそれが漁業者たちであると気付きます。だからこそ、農林水産業をしっかり守ることは国土を守ること、地方を守ることに繋がると確信しました。

しかし今、消費者が物価を安くすることばかり求めていたり、生産者のことを知らなくなってしまっていることを危惧している壯太朗さんは「日本人がもっと日本のことを知らないといけない」と、資源のことを考えたり食の価値を高めるため、給食等を通じて子どもたちへの食育などに力を入れています。

気仙沼から日本を変える

震災で気付いたことを軸に、次々と新しい取り組みを続ける臼福本店。生産者が大切だと気付くと同時に、生産者がどんどん辞めていく現実を変えたいと思い、若者に興味を持ってもらえるよう、有名なデザイナーたちと共に船のデザインや居心地の良さにもこだわり始めました。そして、2020年には、遠洋漁船の第一昭福丸が漁船で初のグッドデザイン賞を受賞。当初無理だと言っていた造船の技師たちも「俺たちにもこんな船が作れる!」と自信に繋がりました。

その他にも、海の資源をしっかり管理していくことで持続可能な漁業のあり方を考えていくべきだと、同年大西洋クロマグロ漁業で世界初の〝MSC国際認証〟の取得。これらの取り組みも「食」のことを本気で考えたからこそ。「気仙沼という地に誇りを持って、気仙沼から日本を変えてやるんだと思っています」という壯太朗さんのまなざしは、常に未来を見つめています。

株式会社 臼福本店

〒988-0013 宮城県気仙沼市魚町2-4-11
TEL/0226-22-0052
https://usufuku.jp